2023年5月にPC(Steam)向けに配信開始されたADVゲーム【午前五時にピアノを弾く】のレビュー・評価記事です。作者はKazuhide Oka氏。本作は無料で楽しめる作品でありながら、心温まる短編ADVとなっており、プレイ後にほっこりとした気持ちになれる良いゲームでした。
ストーリーのネタバレは極力避けていますが、何も情報を入れないでプレイするのもまた一興。無料ですので、すでに気になっている方はレビューを読まずに、まずは遊んでみることをおすすめします。
午前五時にピアノを弾くの良かった点 簡易まとめ
- 短編小説のように綺麗にまとまった物語
- 「霧が濃い朝」という、俗世から切り離されたような世界観の良さ
- 世界観に合った絵柄
- 少ないながらも物語によく合った音楽
午前五時にピアノを弾くのゲーム概要
朝の早い時間、午前五時くらいになると、この町にはときどき濃い霧が出る。
霧の濃い日に出かけて、それっきり帰ってこなかった――そんな話をときどき聞く。
本当のことかどうかはわからない。でも、この町では霧の濃い朝に出かける人はあまりいない。山の中のログハウスに住む彼女は、そんな霧が好きだった。
霧の濃い朝は、いつも散歩に出かける。
でも、どうして霧が好きなのかというのはよくわからない。
だから、霧は好きだけれど、霧の朝は好きじゃない。自分でもわからない何かに惹かれて、突き動かされるみたいに、彼女は霧の中をさまよい歩く。
Steam販売ページより
主人公は山中のログハウスに住む少女。彼女は霧の濃い朝に、霧の中をさまよう(散歩する)習性を持っています。
そんな主人公が、霧の中を散歩する「散歩フェーズ」と、散歩を終えた後の「物語フェーズ」を交互に進行する形でゲームは進みます。
■散歩フェーズ
午前5時から霧の中を散歩し、さまざまなものと出会い、出会ったものに対する2択の選択肢を選ぶことで「眠気」「渇き」「狂気」「充電」の4つのリソースが増減し、「時間」が進みます。
これらのリソースが限界に達する前に午前8時を迎えることができれば、次の「物語フェーズ」に進むことができます。
一見するとリソースを管理しながら選択肢を選ぶだけのシンプルなシステムに思えますが、散歩中にランダムで入手できるアイテムが重要な役割を果たします。たとえば、「狂気の増加を50%の確率で0にする」や「選択肢を選ぶたびに50%の確率で乾きが-1される」といった効果を持つアイテムを上手く活用することが攻略の鍵となっています。
また、この散歩フェーズでは難易度が選択できるため、物語を早く読みたい人は低難易度を、やりごたえを求める人は高難易度でプレイすることができます。
■物語フェーズ
家での出来事や霧の中での出会いといったエピソードが語られるフェーズです。
この2つのフェーズを繰り返すことで「午前五時にピアノを弾く」の物語が進んでいきます。
午前五時にピアノを弾くの良かった点
短編小説のように綺麗にまとまった物語
このゲームの魅力の一つは、まるで短編小説のように綺麗にまとまった物語です。
最初の方のエピソードでは「まあまあ、こんなものかなぁ」と思っていましたが、物語が進むにつれどんどん惹き込まれ、気づけば一気に読み進めてクリアしてしまいました。
テキストの量は決して多くないものの、一貫したテーマがしっかりと描かれており、単なる雰囲気ゲーでは終わらず、きちんとしたシナリオが展開されます。物語の受け取り方はプレイヤー次第ですが、私は少しだけ人生について思いを馳せ、幼少の頃を懐かしむ気持ちになりました。
しんみりするけれども心が温まる、そんな物語をぜひ楽しんでみてください。
「霧が濃い朝」という、俗世から切り離されたような世界観の良さ
このゲームの二つ目の魅力は、「霧が濃い朝」という世界観、その独特な空気感です。
霧が濃い朝というだけで、現実から少し離れた感覚に陥ります。さらには散歩中には「熱を帯びた火山」や「人の形をした機械人形」といった通常では存在しないはずのものに出くわすことで、幻想的でもありながら少し狂気的な雰囲気が醸し出されています。
この雰囲気づくりが物語の主軸と相まって、作品全体の世界観構築を素晴らしいものにしています。
前作「ナツノカナタ」は会話文が多く地の文が少ないそうですが、本作では地の文が多く、世界観がきちんと描写されているため、情景を思い浮かべやすく、個人的に非常に好みでした。
このような文章構成について、下記記事にて「ナツノカナタ」と「午前五時にピアノを弾く」に関する作者インタビュー中で語られています。気になる方はクリア後にぜひ読んでみて下さい。「午前五時にピアノを弾く」については、記事の後半部分で書かれています(ネタバレ注意)。
世界観に合っている絵柄
背景のグラフィックは、森や山、霧といった要素を中心に描き、この世界の雰囲気をよく表現しています。柔らかく美しい絵柄が、幻想的な雰囲気と調和し、非常に良かったです。
キャラクターデザインも前作から変更されており、「午前五時にピアノを弾く」の少し幻想的な世界観に合った素敵な絵柄でした。
無料ゲームでこのクオリティは素晴らしいと思います。
特にタイトル画面で見られるログハウスと森、少女が描かれた絵や、最後のエンディングの絵はどちらもとても印象深く、個人的に好みの絵となっていました。
数は少ないながらも物語によく合う音楽
そして、タイトルにもある「ピアノ」の音楽が素晴らしいです。癒されます。
曲数こそ少ないですが(無料なので当たり前)、どれも優しいメロディで、特に「時の流れ」という曲が優しさの中に儚さを感じさせるメロディがあり、個人的にとても気に入りました。
作者のYouTubeチャンネルでナレーション付きのPVが公開されています。実際のゲームに音声はありませんが、曲の雰囲気やゲームのビジュアルを確認するのにぴったりなので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
ゲームを遊ぶ際に気をつけること
エンディングについて
作者の公式HPに書かれている通り、本作はマルチエンディング形式を採用しています。
一つのエンディングを見ただけでは終わりではなく、すべてのエンディングを見て初めてゲームクリアとなります。物語的にも最後のエンディングで美しく完結するため、すべてのエンディングを見ることをおすすめします。そうしないと「???」と疑問が残ってしまうかもしれません。
エンディングの進行状況は、タイトル画面のギャラリーから確認できます(いずれかのエンディングを見た人のみ確認可能)。
エンディング分岐条件については攻略情報なしでも比較的分かりやすいと思いますが、もし分岐条件が分からない場合は、作者HPの「エンディング分岐」の項目を参考にしてみてください。ヒントが書かれています。
作者HPは下記より
散歩フェーズのゲーム難易度について
散歩フェーズの難易度は、物語が進むにつれて徐々に難しくなります。さらに、ランダム要素も含まれているため、良いアイテムが揃って簡単にクリアできる時もあれば、アイテムや選択肢がうまく噛み合わずにあっさりとゲームオーバーになってしまうことも。
途中で難易度を変更することもできるので、「難しいな。なかなかクリアできないな」と感じたら、簡単な難易度である「CHILL」や「STORY」に変更するのも一つの手です。
レビュー・評価まとめ
以上、【午前五時にピアノを弾く】の評価をまとめると、
- 短編小説を読んでいるような美しい物語
- 「濃い霧が出る朝」の独特な雰囲気の良さ
- 世界観に合った絵柄と優しいピアノの音色
となります。
無料のフリーゲームでありながら、世界観の良さと癒やされるピアノ曲、そして儚くも優しい物語が詰まった素晴らしい作品で、プレイして良かったなと思えるものでした。
クリアまでそれほど時間もかかりませんので、テキストアドベンチャーが好きな方は、ぜひ本作プレイして、この優しい世界に浸ってみてください。
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